【こおろぎ】が届きました

(2007年03月08日)

一番大切なお金

私は以前、全国社会福祉協議会の研究開発委員をしていました。

私がある障害児の施設に行ったときのことです。
その私設には、翌日で卒園する一人の少女がいました。彼女は、母親が失踪し、父親が肝臓病で入院をしたため、施設に預けられたそうですが、12歳になってもまだお金の区別が出来ませんでした。施設を出てから彼女が困らないようにと、女性職員が一円硬貨から一万円札までを順に並べて、「このお金が五つで、これだよ」と、卒園していく彼女にお金の種類を教えていました。

翌朝、私が出発の準備をしていると、その職員が「よかったら彼女の勉強の成果を見ていってください」と言うので、彼女の卒業試験に立ち会うことになりました。テストの前に職員さんは、もう一度お金を並べて、「このお金が五つで、これだよ」と説明したあとに、「この中で一番大切なお金はどれ?」と彼女に尋ねました。

私は、これだけ説明すれば当然一万円札を指すだろうと思って見ていたのですが、その子はニコニコしながら10円硬貨を指差したのです。「あれあれ!」と思って見ていると、その職員さんはガッカリした様子も見せずに、「ごめんね。教え方が悪かったね。もう一度説明するね」と言って、また「このお金が五つで、これだよ」と説明を始めました。その職員さんの姿には本当に頭が下がりました。

その説明が終わると、職員さんは彼女にもう一度「この中で一番大切なお金はどれ?」と、尋ねました。私は「今度こそ一万円札を指すだろうな」と思って見ていたのですが、その彼女は嬉しそうに微笑みながら10円玉を指差したのでした。

さすがに今度はその職員さんもガッカリした表情で何かつぶやいたあとに、「どうしてこれなの?こっちじゃないの?」と一万円札を指差しました。すると彼女は笑いながら「これがあるとお父さんの声が聞こえるんだもん」と10円玉を指差したのです。

携帯電話を持たない彼女にとって公衆電話が父親の声を聞ける唯一の手段だったのです。この彼女の言葉は、本当にショックでした。「一番大切なお金」と言われて、一万円札だとばかり思っていた自分が本当に情けなくなりました。私よりも知的障害を持ったこの子のほうがよほど大切なものを知っていると思ったのです。

サイパンのバンザイクリフでは、誤った思い込みのために終戦後にアメリカ兵が止めるのを振り切って多くの日本人が身を投げました。今思うと信じられない行為ですが、もしかしたら今の時代の私達も誤った思い込みのために、今、身を投げているのではないでしょうか?何十年か経ったときに、その答えが出ると思います。

杉井保之氏 【こおろぎ】より

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