社長ブログ

【こおろぎ】より

(2008年06月26日)

こおろぎCLと母の介護

 私は今、五年前に脳出血で倒れた母親を自宅で介護しています。

 母の状態は、脳出血の後遺症による言語障害と右半身麻痺とによって車椅子とベッドの生活です。今では母を自宅で介護するということで私は自分育てのチャンスをいただけたと思っていますが、そう思えるようになるまで私はいくつもの波に飲み込まれそうになりました。その波を乗り越えるとき役に立ったのがCL、日本語訳は「建設的な生き方」という教育法でした。

 CLとは、精神科医の森田正馬先生が創案した森田療法と、吉本伊信先生が提唱した内観法を、アメリカの人類学者D.K.レイノルズ博士が統合して一般の人に役立つようにした教育法です。

 母の救急治療が済んで主治医の先生から「母はもう立ち上がることもできず、今までの認知症が進み、言語障害もあるため意思疎通に困難があります。これからは生活すべてに介助が必要になります」と言われたとき、自宅で介護するか、施設に預けて専門家にお願いするかとても迷いました。それでも自宅介護に踏み切ったのは、母に対して内観をしていたからです。

 内観法というのは、人にして頂いた事実、して差し上げた事実、迷惑をかけた事実を一つひとつ確認していく作業なのですが、私の母は私が子どもの頃、魚の仲買業をしていた父と一緒に、朝3時から築地の市場で仕事をし、市場から戻ると仮眠も取らずに事務と家事をこなしながら私たち姉弟を育ててくれました。それなのに私は「学校行事に来てくれない」と言っては母を困らせていました。内観をして、母が私たち姉弟のためにたくさんの苦労をしてきてくれたことに気づいたことで、これが母にお返しをする最後のチャンスかかもしれないと思ったからです。

 しかし、実際に介護してみると想像していたよりはるかに大変でした。認知症の母には自分の置かれた環境も自分の体の不自由なことも理解できないので泣き喚く日が続きました。夜中には妄想におびえる母をなだめるため何度も起きる日が続き、私は疲れてしまって「もう、いいかげんにしてよ!」などと言ってしまうのです。

 すると母は麻痺していない手で私の頬をたたき、蒲団を直そうとする私の手首をつかんでねじ上げるのです。感情的に母を怒ってしまうのなら、病院でプロに任せたほうが母にとっても私にとってもいいのではないかと悩みました。

 そんなとき役に立ったのがCL森田の「行動のヒント」でした。

 赤ん坊のようになった母をあるがままの事実として受け入れ、その母を介護するという目的のために、自分にコントロール出来る「行動」を変えることにしたのです。

 それまでなら便をこね回してしまった母に「どうしてここまで汚すの!」と言って乱暴にお世話していましたが、気持ちはどうでも、言葉という行動に気をつけ、丁寧にお世話することにしたのです。

 「ごめんね。早く気づいてあげられなくて、今すぐさっぱりしようね」と。

 このことは言うほど簡単ではありませんでしたが、普段から「冨子さん、おはようございます。今日はいいお天気ですよ」と声を掛けるようにすると笑顔も出やすくなり、お世話も丁寧になるから不思議です。もしやさしい気持ちになってからお世話をしようとしていたら、私は介護を放棄していたと思います。

 どんな気持ちもあるがままに受け入れて、目的に合った行動をする。そうしたCL的な生き方が私の介護を支えてくれています。CLを紹介してくださり、本当にありがとうございます。
        横浜市 杉山さんより

杉井保之氏「こおろぎ」より

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